こんにちは、現役小児科医の『つき先生』です (医師5年目、小児科専攻医)。

お風呂に入っている時や、赤ちゃんが泣いた時、足の付け根(股の部分)がぽこっと膨らんでいるのを見つけて、「これって何!?」「病気なの?」と心配になったことはありませんか?

それは、子どもの「鼠径(そけい)ヘルニア」かもしれません。
昔から「脱腸(だっちょう)」とも呼ばれている病気です。

「自然に治るの?」「手術が必要なの?」とパパやママは不安でいっぱいになると思いますが、子どもの病気としては比較的よく見られるものです。

ただし、この病気には「一刻を争う、絶対に放置してはいけない危険な状態」が隠れています。

この記事では、お家で見分けるポイントから、命に関わる危険な合併症「嵌頓(かんとん)」のサイン、そして「まずは何科を受診すればいいの?」という疑問まで、現場の小児科医の視点で分かりやすく丁寧に解説します。

この記事でわかること

  • 子どもの鼠径ヘルニア(脱腸)が起きる原因
  • おうちで見分けるための「ぽこっ」とするタイミング
  • 【最重要】一刻を争う危険な状態「嵌頓(かんとん)」のサイン
  • 病院を受診する・救急車を呼ぶ目安
  • 赤ちゃんの鼠径ヘルニアは自然に治る?手術のタイミング

免責事項

本記事は、一般的な医療情報を提供することを目的としており、診断や治療を行うものではありません。
お子さまの症状や体調について不安がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診察を受けてください。

【1分でわかる】 子どもの鼠径ヘルニア

鼠径ヘルニア(脱腸)とは? 

生まれつきお腹の壁にある隙間から、腸やお腹の中の組織が飛び出してしまう病気です。
泣いた時や立った時に足の付け根がぽこっと膨らむのが特徴です。
ふだんは指で優しく押したり、横になってリラックスすると自然に引っ込みます。

絶対に放置してはいけない「嵌頓(かんとん)」とは? 

飛び出した腸や卵巣が隙間に挟まり、お腹の中に戻らなくなってしまった状態です。
そのまま放置すると腸の血流が途読えて腐ってしまい(壊死)、命に関わります。
緊急手術が必要です。

救急車を呼ぶ・すぐに受診する目安

  • ぽこっと膨らんだ部分が、硬くなって元に戻らない
  • 触ると激しく痛がる、泣き止まない
  • 腫れているところが赤色〜紫色に変色している
  • 何度も吐く、お腹がパンパンに張っている

そもそも「鼠径ヘルニア(脱腸)」ってどんな病気?原因は?

鼠径(そけい)」とは、足の付け根(股の部分)のことです。

子どもの鼠径ヘルニアのほとんどは、生まれつきの体の構造(外鼠径ヘルニア)が原因で起こります。

赤ちゃんがお腹の中にいるとき、お腹と外(男の子なら陰嚢、女の子なら大陰唇)をつなぐ「袋(腹膜鞘状突起)」があります。
通常はこの袋は生まれるまでに自然と閉じるのですが、これが閉まりきらずに隙間として開いたまま残ってしまうことがあります。

この開いた隙間に、泣いた時などの腹圧(お腹への力)がかかった勢いで、お腹の中にある内臓(腸管や卵巣など) が滑り込んで外に飛び出してしまうのが、子どもの鼠径ヘルニアの正体です。

子どもの鼠径ヘルニア「3つの特徴」

子どもの鼠径ヘルニアには、統計的に以下のような特徴があります。

  • 男の子にやや多い
    男女比は約3:2で、男の子に多く見られます。
  • 右側に多い
    体の構造上、なぜか右側に起こることが多い(約60%)のが特徴です。
    両側にできることもあります。
  • 早産や低出生体重の赤ちゃんに多い
    体が十分に未熟な状態で生まれてきた赤ちゃんは、隙間が閉じきっていないことが多いため、発症率が高くなります。

お家での見分け方と初期症状

子どもがただリラックスして寝ている時は、お腹の中の圧力が低いため、何も症状(ふくらみ)は見られません。

以下のような、「お腹に力が入る(腹圧がかかる)タイミング」でお肌の下がぽこっと腫れてくるのが特徴です。

  • 赤ちゃんが激しく泣いた(啼泣)とき
  • うんちをしようときばっているとき
  • 立って遊んでいるとき、走っているとき
  • 咳やくしゃみをしたとき
  • お風呂に入って温まったとき

ぽこっと出ている部分を、お布団の上などでリラックスしている時に優しく指で押してあげると、「グズグズ…」という音や感触とともに、お腹の中にスッと戻っていきます。

ヘルニア自体は、戻る状態(還納できる状態)であれば痛みはありません。 

お風呂上がりやおむつ替えで「あれ?何か足の付け根が膨らんでいるな」と思ったら、まずは焦らず、お子さんの機嫌が良い時に優しく触ってみてください。

 健診でみつかる事もよくあります。1歳半健診については以下の記事を確認してください。

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【超重要】命に関わる危険なサイン「嵌頓(かんとん)」とは?

鼠径ヘルニアで小児科医が最も警戒し、パパやママにも絶対に知っておいてほしいのが「嵌頓(かんとん)ヘルニア」という状態です。

嵌頓(かんとん)とは?

飛び出した腸が、お腹の壁の狭い隙間にギュッと挟まってしまい、お腹の中に戻らなくなってしまった状態を言います。

イメージとしては、「きつい指輪が指から抜けなくなり、指先がうっ血して腫れ上がってしまう状態」と同じです。

挟まった部分をそのまま放置すると、臓器に血液がいかなくなる「虚血(きょけつ)」という状態に陥ります。

これを「絞扼性(こうやくせい)腸閉塞」と呼びます。

血流が途絶えた腸や卵巣はわずか数時間で腐って破れ(壊死・穿孔)、急性腹膜炎や全身にバイ菌が回る敗血症といった、命に関わる極めて重篤な状態を引き起こします。

特に、乳児期(生後1年未満の赤ちゃん)は、この嵌頓を起こすリスクが最も高いため、厳重な注意が必要です。

★小児科医の視点:「お家で無理やり戻す」のは絶対にNG!

ネットの記事などで「お腹の上から指で強く押せば戻る」と書かれていることがありますが、自己判断で力任せに戻そうとするのは非常に危険ですので絶対にやめてください。 

すでに腸が弱っている場合、無理に押すことで腸が破裂(穿孔)してしまう恐れがあります。

用手的に還納する(手で押し戻す)処置は、私たち医師が全身状態を注意深く観察し、必要に応じてお薬(鎮静薬や鎮痛薬など)を使って赤ちゃんをリラックスさせ、お腹の力を抜きながら慎重に行う専門技術です。

つき先生

「戻らないな」と思ったら、お家で頑張らずに、すぐに病院へ向かってください。

救急車を呼ぶ・すぐに受診すべき「危険サイン」

お子さんの足の付け根のふくらみが、以下のような状態になっている場合は、すでに「嵌頓(かんとん)」を起こして腸の血流が途絶えている可能性があります。 

夜間であってもためらわずに、すぐに救急外来を受診するか、救急車(119番)を呼んでください。

  • ふくらみが硬くなり、横になっても, 指で優しく押しても全く引っ込まない
  • ふくらんでいる部分を触ると激しく痛がる、のたうち回って泣く、泣き止まない
  • ふくらんでいる部分の皮膚が、赤色や紫色に変色している
  • 何度も吐く。特に、緑色や黄色い液体(胆汁)を吐く
  • お腹がパンパンに張っている
  • 熱がある、ぐったりして元気がない
  • うんちやガス(おなら)が全く出なくなった

これらの症状がある場合、一刻を争う「緊急手術」が必要になります。

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治療法と手術のタイミング:赤ちゃんの自然治癒はある?

「子どもの鼠径ヘルニアは、いつ手術をすればいいの?」というのは、親御さんから最も多くいただく質問です。

実は、大人の鼠径ヘルニアは自然に治ることはありませんが、生まれたばかりの新生児や乳児期(生後数ヶ月)の赤ちゃんの場合、成長とともにお腹の壁の筋肉が発達し、隙間が自然に閉じて治ることがあります。

そのため、治療のタイミングは「お子さんの年齢」や「嵌頓のリスク」を考慮しながら、以下のように判断します。

生後8〜9か月頃までは「様子を見る」ことがある

1歳未満の小さな赤ちゃんの場合、嵌頓(挟まること)が一度も起きておらず、ふだんは簡単に戻る状態であれば、自然に治ることを期待して生後9ヶ月頃まで外来で経過観察することがあります。

ただし、この経過観察中はお家で常に「嵌頓の危険サイン」がないかを注意深く見守っていただく必要があります。

1歳を過ぎたら「手術」を検討する

1歳を過ぎても自然に閉じなかった隙間は、その後も自然に治る可能性が極めて低くなります。

そのため、将来の嵌頓のリスクを防ぐために、小児外科での手術(ヘルニア手術)をお勧めすることになります。

一度でも「嵌頓(かんとん)」になりかけた場合は、早期に手術

お家や病院で戻すのが大変だった(嵌頓を起こしかけた)エピソードが一度でもある場合は、赤ちゃんや乳児であっても, 時期を待たずに早期に手術を予定します

★小児科医の視点:小児外科の先生にバトンタッチします!

「鼠径ヘルニアかな?」と思ったら、まずはかかりつけの小児科を受診していただいて全く問題ありません。

私たちがしっかりと診断し、手術が必要なタイミングで、専門である「小児外科」の先生へご紹介します。

「小さなわが子に全身麻酔をして手術なんて…」と涙を流されるパパやママもいらっしゃいますが、子どもの鼠径ヘルニアの手術は、小児外科で最も件数が多く、安全性が確立された手術です。

最近では傷跡がほとんど目立たない「腹腔鏡(ふくくうきょう)手術」が主流になっており、入院期間も1泊2日や、日帰り手術が可能な病院も増えています。

つき先生

小児外科の先生方は本当にプロフェッショナルですので、安心して任せてあげてくださいね。

まとめ:Take Home Message

子どもの鼠径ヘルニアは、適切に対応すれば決して怖い病気ではありません。

Take Home Message

足の付け根の「ぽこっ」は、泣いた時や立った時に出やすい
機嫌が良いときに優しく押して戻れば、ひとまずは様子を見て大丈夫
戻らなくなって「硬い、痛がる、赤い、吐く」は、一刻を争う「嵌頓(かんとん)」のサイン!
お家で無理やり押し戻そうとするのは絶対にNG!すぐに病院へ!
1歳を過ぎたら、将来の安全のために小児外科での手術を計画しましょう

もし、おうちでの見守り方に不安があるときや、これってヘルニアかな?と迷ったときは、一人で悩まずに遠慮なく小児科を受診してくださいね。

あとがき

オムツを替えるとき、お風呂で体を洗ってあげるとき。 わが子の柔らかいお肌の上にぽこっとした硬い腫れを見つけた瞬間、心臓がバクバクと波打つような、冷や汗が流れるような恐怖を感じると思います。

これは、お母さんのお母の中で育つ過程で、たまたま袋の閉じ口が少しだけ開いたまま生まれてきた、生まれつきの「個性」のようなものです。

外来で「痛みの判断が難しい」とご相談をいただくことも多いですが、おっしゃる通り、痛みを言葉で言えない小さな赤ちゃんの場合、機嫌の悪さが「ヘルニアが挟まって痛いのか(嵌頓)」を見極めるのは非常に困難です。

ですから、お家で無理に戻そうとするのは絶対にやめ、少しでも「戻らないまま不機嫌で泣き止まない」「触ると嫌がる」といった様子があれば、すぐに救急外来を受診して、私たち小児科医に任せてください。

今の医学には、その開いた隙間をきれいに塞いで、元通りに元気にする確実な方法があります。

毎日の看病で不安なことがあれば、いつでも私たち小児科医にその不安を吐き出してくださいね。

受診の目安

本記事は一般的な医療情報を解説するものです。

次の症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
・ぐったりして元気がない
・呼吸が苦しそう、顔色が悪い
・水分がとれない、尿が極端に少ない
・けいれんが5分以上続く

上記以外でも「いつもと違う」「判断に迷う」場合は、
早めに医療機関へご相談ください。

免責事項

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子育て中の保護者の方へ

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