病気 解説

妊娠中から始めるRSウイルス予防|赤ちゃんを守る準備

小さな赤ちゃんにとって非常に身近で、時に命に関わることもあるRSウイルス感染症について、小児科医の視点から解説します。

そんな感染症から赤ちゃんを守るために、妊娠中にできる「とても有効な予防法」=ワクチン接種についてお伝えしたいと思います。

RSウイルスってどんなウイルス?

RSウイルスは、飛沫感染・接触感染で広がるウイルスで、1歳までに約7割、2歳までにはほとんどの赤ちゃんが一度は感染すると言われています。

再感染も珍しくなく、生涯に何度もかかる可能性があります。初めての感染では、ほとんどの赤ちゃんが何らかの症状を示します。

主な症状
  • 鼻水、咳、発熱
  • 咳き込みでミルクや食事が取れない
  • 呼吸が苦しそう
  • ゼーゼー、ヒューヒュー(=喘鳴)

これらの症状は、発症から4〜5日後にピークを迎えることが多く、咳や鼻水が長引くこともあります(1〜3週間程度)。

RSウイルスが重症化した場合の症状とリスク

RSウイルスは多くの場合、風邪のような軽い症状で終わります。
しかし、約30%の乳児では細気管支炎や肺炎といった「下気道炎」へ進行し、重症化することがあります。

入院が必要になるケース
  1. 生後3ヶ月未満の赤ちゃん(軽症でも念のための入院が多い)
  2. 呼吸困難、チアノーゼ(唇が紫)、ゼーゼーとした喘鳴
  3. 哺乳不良、咳込みによる嘔吐
  4. 細菌性肺炎、熱性けいれんなどの合併症

RSウイルスが流行する時期には、小児科病棟がRSウイルス感染症の赤ちゃんでいっぱいになるほどです。
入院期間も長引くことがあり、家族への負担も決して軽くありません。

また、酸素投与や人工呼吸器管理が必要となるほど重篤なケースもあり、時には命に関わってくるほど状態が悪いこともあります。

合併症・後遺症にも注意

RSウイルスは、以下のような合併症を引き起こすことがあります。

  1. 急性中耳炎・滲出性中耳炎
  2. 熱性けいれん
  3. 無呼吸発作(特に新生児期)
  4. 細菌性肺炎の併発
  5. 喘息発作

また、近年の観察研究では、RSウイルス感染が将来的な喘鳴や喘息のリスクを高める可能性も指摘されています。

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妊娠中にできる最大の予防「アブリスボ」ワクチンとは?

2023年、日本で妊婦向けRSウイルスワクチン「アブリスボ」の接種が可能になりました。

アブリスボの特徴

妊婦さんが接種すると、体内でRSウイルスに対する抗体が作られます。
その抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに移行します。
生まれて間もない赤ちゃんを、重症化から守る効果が期待できます。

接種対象と方法

妊娠中のいつ接種すべきか迷っている方へ

  • 対象:妊娠24〜36週の妊婦さん
  • 特に推奨:妊娠28〜36週
  • 回数:1回のみ
  • 副反応:軽度な腕の痛み・赤み程度。重篤な副反応はまれです。
  • 費用:3〜4万円程度(医療機関による)

ファイザー社. アブリスボ(ABRYSVO)

小児科医からの本音メッセージ

私は、RSウイルスによって入院し苦しむ赤ちゃんを多く診ています。
中には、呼吸管理が必要になったり、長期入院となったり、付き添うご家族も疲弊されてしまうことがあります。

「予防できるなら、しておいてほしい」
これは私たち小児科医の願いです。

今、妊娠中にワクチンを接種することで、生まれた直後の一番不安定な時期を乗り越える備えができます。
これは、医学の進歩が生んだ「未来の当たり前」になる予防法だと感じています。

まとめ

Take Home Message

RSウイルスは、ほぼ全ての乳幼児が感染するウイルス
特に生後数ヶ月の赤ちゃんでは重症化・入院リスクが高い
合併症(中耳炎・肺炎・無呼吸など)や喘息の後遺症にも注意が必要
妊婦さんがアブリスボを接種することで赤ちゃんに抗体が移行し、生後すぐの重症化リスクを大きく下げられる

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あとがき

妊娠中の今だからこそ、できることがあります。
それは、「赤ちゃんが生まれてからの未来を守る準備」。

費用やタイミングについて迷われる方もいるかもしれません。
でも、赤ちゃんが元気に呼吸し、笑い、ミルクを飲んで育っていく姿を守れるなら――
とても価値のある一歩だと私は思います。

不安や疑問があれば、ぜひかかりつけの産婦人科や小児科で相談してみてくださいね。

お読みいただき、ありがとうございました。

子育て中の保護者の方へ

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