「アトピー性皮膚炎」と聞くと、「かゆみがある湿疹」や「皮膚が弱い体質」といったイメージを持つ方が多いかもしれません。アトピー性皮膚炎は見た目の問題だけでなく、放置すると食物アレルギーや気管支喘息、アレルギー性鼻炎といった「アレルギーマーチ」の引き金になることもあります。アトピー性皮膚炎は適切なスキンケアと治療でコントロールできる病気です。
この記事では、アトピー性皮膚炎の原因や治療法、悪化を防ぐポイントを詳しく解説します。こどもの健康を守るために、正しい知識を身につけましょう!
アトピー性皮膚炎とは?
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が繰り返し悪化と改善をくり返す病気です。
アトピー素因とは?
アトピー性皮膚炎のこどもは、「アトピー素因」を持っていることが多いです。これは、家族や本人に気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎 などの病歴がある場合や、IgE抗体を作りやすい体質のことを指します。
アトピー性皮膚炎のこどもは、皮膚のバリア機能が弱いため、水分を保持しにくく、かゆみが強く、感染しやすい、という特徴があります。
年齢ごとの発症頻度
年齢別の有症率は、
乳児(0~1歳):6~32%
幼児(1~5歳):5~27%
学童(6~12歳):5~15%
大学生(18歳以上):5~9%
と報告されており、成長とともに症状が落ち着いていく傾向があります。
大半のこどもは思春期までに自然に良くなりますが、一部の人は成人まで症状が続き、難治性になることもあります。
アトピー性皮膚炎の診断基準と特徴的な症状
アトピー性皮膚炎は、以下の 3つのポイントを満たす場合に診断されます。
- かゆみがあること
- 特徴的な湿疹と分布があること(赤く、ざらざらした湿疹が、頭・顔・体幹・関節部分などに左右対称にできる)
- 慢性的・反復性であること(乳児では2か月以上、それ以外では6か月以上続く)
治療とスキンケアのポイント
症状がない、もしくは軽微な症状のみで日常生活に支障がなく、薬物療法もそれほど必要がない状態を維持できることです。
洗浄と保湿
- 石鹸の泡で洗い、しっかりすすぐ
- シワも丁寧に洗い、顔も忘れずに
- タオルでこすらず、押し拭きする
- すぐにたっぷり保湿する
1日2回、入浴後と着替えのタイミングで保湿!
適量の目安
ローション:1円玉の大きさ
保湿剤は「少し光るくらい」「ティッシュがくっつくくらい」が適量 です!
ステロイド外用薬の使い方
- 湿疹がある間は1日2回塗る
- 「ツルツル・スベスベ」になったら、1日1回を1週間
- その後、再発しなければ終了!
1日1回を1週間塗った後、2日に1回→3日に1回と徐々に減らしていく方法もあります。
副作用は心配しすぎなくて大丈夫!
飲み薬のステロイドと比べ、外用薬は 全身への影響が少なく安全に使えます。
「皮膚が薄くなる」「ニキビができる」などの副作用が出ることもありますが、 使用をやめれば元に戻ります。
ステロイド外用薬は目に入らないよう注意しましょう!
悪化要因への対策
季節や気温、環境要因、汗など様々な要因でアトピーは悪化しますが特に以下の3つの対策が大切になります。
ダニ対策
カビ対策 換気をして湿気をためない
喫煙はNG! 家族の禁煙が大切
アトピーを放置するとどうなる?
アトピー性皮膚炎を適切に治療せずに放置すると、以下のような 将来的なリスクがあります。
アレルギーマーチ
アレルギーマーチとは、「アレルギーになりやすいこどもが成長するにつれて、いろいろなアレルギー疾患に順番にかかっていく様子」をたとえたものです。
アトピー性皮膚炎はアレルギーマーチの出発点であり、適切に治療しないと、その後の食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を引き起こしやすくなります。
特に、湿疹がひどい状態を放置すると、食物アレルギーを発症するリスクが高くなることがわかっています。
皮膚のバリア機能が低下すると、アレルゲン(食べ物の成分などアレルギー反応を引き起こす原因となる物質)が皮膚から入り込み、体が「異物」と認識して排除しようとする免疫機能がはたらき、アレルギー反応を引き起こす可能性があります。
そのため、アトピー性皮膚炎の適切な治療が、将来的なアレルギー疾患を防ぐことにつながるのです。

感染症リスク
アトピー性皮膚炎の皮膚はバリア機能が低いため、細菌やウイルスに感染しやすい状態です。
掻き壊した部分に細菌が入り、ジュクジュクした湿疹や水ぶくれが広がります。ステロイド外用薬だけでは治らず、抗菌薬が必要になることもあります。
ウイルス感染によるカポジ水痘様発疹症(ヘルペスウイルス)や細菌感染による蜂窩織炎などの合併症を起こすことがあります。
強いかゆみで目をこすりすぎると、目の病気を引き起こすことがあります。
睡眠・生活への影響
アトピー性皮膚炎の強いかゆみは、夜間の睡眠を妨げ、日中の集中力や体力にも影響します。寝不足→免疫力低下→さらにアトピーが悪化という悪循環になることもあります。
また、アトピー性皮膚炎が慢性化し、皮膚が硬く厚くなる(苔癬化)と、長期間にわたって症状が残りやすくなります。
まとめ
「洗って保湿」が基本のケア!
ステロイドの塗り薬は怖がらずにしっかり使う!
悪化要因(ダニ・カビ・喫煙など)を減らす!
アトピー性皮膚炎の治療は「湿疹を完全に治し、きれいな肌を維持すること」が大切です。正しいケアでこどもの笑顔を守りましょう。
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環境再生保全機構. ぜん息悪化予防のための小児アトピー性皮膚炎ハンドブック
あとがき
「アトピーっぽい」と診断が濁されることもあります。しかし、ステロイド外用薬を漫然と処方されている場合は アトピー性皮膚炎の可能性が高いので、しっかり治療を行いましょう。
肌の調子が悪い、アトピーかも?と思ったら、保湿だけではなくステロイド外用薬が必要なこともあります!
気になる症状があれば、早めに小児科を受診しましょう。

岡本充宏. 小児科ですぐに戦えるホコとタテ. 診断と治療社, 2022年.
ぜん息悪化予防のための小児アトピー性皮膚炎ハンドブック
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024
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